ミチイロ

私の偏愛vol.4◆甘さも切なさも満足も、すべての感情を連れてくる乙女ゲーム

約 7 分

最初の出会いはそもそも、“乙女”じゃなかった。

現実世界で中学生だったわたしは男子高校生になって、個性の塊みたいな女の子たちを次々に手玉にとっていた。たまたま名前を知っただけの同級生の家の電話番号を情報通の友人から聞き出し、突然電話をかけてはデートに誘う。

同時進行で複数の女の子とデートするもんだから、時には待ち合わせ場所を間違えてしまうことも。帰宅後、「ずっと待ってたのに。最低よ。ゴー・トゥ・ヘル」と呪いのような留守番電話を聞いて、震え上がったのも良い思い出だ。

それが、ときめきメモリアル(通称:ときメモ)。わたしが初めて出会い、貪るようにプレイした恋愛シミュレーションゲームだった。

元祖・乙女ゲーム「アンジェリーク」との出会い

アンジェリーク ルトゥール
初代アンジェリークのフルリメイク作品「アンジェリーク ルトゥール」

高校生になったわたしは、再び恋愛ゲームと出会うことになる。それが初代・アンジェリークだ。

Wikipediaによると、乙女ゲームの第1作目がアンジェリークだと書かれている。元祖、と呼んで差し支えないだろう。

初めこそ、「女である自分が男の子を狙うゲームなんて、それはもはやガチなやつじゃないか」と引き気味で見ていたわたしだったが、ひとたびプレイし始めたが最後、いともあっさりと陥落した。

女王候補として世界を救う使命を課せられた金の髪のアンジェリークになりかわり、見目麗しい守護聖様たちとの会話や逢瀬を楽しみつつ大陸の育成を行う日々。

ぶっちゃけ女王になるより守護聖様との恋を叶えることの方が大事だったのに、まんまと女王エンドを迎えて「事実上バッドエンド~~~!」と頭を抱えたのも良い思い出だ。

今のように攻略サイトなどない時代に。
選択肢さえ間違わなければベストエンディングまっしぐら……では決してなかった時代に。
クイックセーブ・ロードなんて便利な機能があるはずもない時代に。

わたしはとにかく時間と根性のすべてを費やし、攻略に挑んでいた。あの頃、わたしをあれほどまでに駆り立てた情熱は、今も確かにこの胸に息づいている。

乙女ゲームに求めるもの

増え続ける積みゲーの数々……

キャラデザイン、声優、メーカー。最も重視する要素は、プレイヤーによって異なる。わたしにとってのメインコンテンツは、やはりストーリーだ。

推しだって、キャラデザと声だけでは決められない。そのキャラクターの性格や、ストーリー中にどんな役割を果たすのか。そういった多角的・多面的な見方をしてはじめて、「こいつだ!」と確信を持てる。

わたしにとって、乙女ゲームはひとつの物語だ。その物語を読み、物語を通してその世界を見つめ、キャラクターに惹かれる。この過程がとても大切で、この過程をこそ愛している。

神の視点で共感する

これはちょうど、少女漫画を読む感覚に近いのかもしれない。

少女漫画を読むとき、決して「主人公=自分」ではないのに、主人公に共感してときめいたり、悲しんだり、ハラハラした経験はないだろうか。

わたしを含めた一定数の乙女ゲーマーがこれと同じように、乙女ゲームを純粋にコンテンツとして楽しんでいる。そしてその世界に確かに生きている主人公と男性たちの恋の成り行きを、神の視点から見守っているに過ぎないのだ。

攻略感、そして高揚感

そのうえで、少女漫画では埋められないものがある。それがきっと、ときメモやアンジェリークに通ずるもの。わたしはそれを「攻略感」と呼んでいる。

さまざまな性質の乙女ゲームの中でわたしが好むのは、「攻略対象の主人公に対する態度が、序盤とエンディングで大きく異なるもの」。つまりギャップのある展開、キャラクターだ。なので、最初から好感度高めのキャラが揃っている乙女ゲームだと、実はあまりやる気が出ない。

ときメモなら、無表情だった紐緒さんの頬に初めて赤みがさした瞬間。アンジェリークなら、執務室のオリヴィエ様が「はあい♪ あんたが来てくれるのをわくわくして待ってたよ」とまばゆい笑顔で迎えてくれた瞬間。

あのとき確かに、わたしは心の中でガッツポーズを決めた。よっしゃ!と。あれこそが攻略感であり、乙女ゲームに求める高揚感なのだ。

お手軽に、心をゆさぶるエンターテインメント

イケメン革命◇アリスと恋の魔法
出典:イケメン革命◇アリスと恋の魔法

近年の女性向けゲームはボイスの担う役割が非常に大きくなっており、一部にしか音声が入らないパートボイスよりフルボイスを求める声が多い。

声優が声をあてると、キャラクターに命がともる。こう言ったら、大げさだろうか。

例えば、「好きだ」というセリフひとつとってみても「……好きだ」なのか「好きだ!」なのかで全然違ってくる。

テキストでの表現には限界があるが、そこに声を吹き込むことでより繊細な気持ちが乗っかる。息遣いや間、声の大小や高低。そうしたすべてをひっくるめて、ひとつのコンテンツとなる。

イヤホンから注ぎ込まれる甘い言葉は、容易くわたし達乙女を「ひええええ」と悶えさせる。映画だってドラマだって漫画だって良いのかもしれないが、乙女ゲームはプレイヤーを「ひええええ」と言わせるために作られるエンターテインメントだ。だからお手軽に「ひええええ」が味わえる。

ときめきも切なさもハラハラも、そして清々しい満足感まで。乙女ゲームは、すべてを味わいしゃぶり尽くせる至高のエンタメなのだ。

わたしが大好きな乙女ゲーム

プレイ済みの乙女ゲームの中から、わたしが大好きなタイトルをご紹介します。

三国恋戦記〜オトメの兵法!〜

2010年にPC版が発売されて以来、長く愛されてきた良作。PSVita、Nintendo Switchなどさまざまなハードに移植されています。

主人公は現代の女の子、三国志をベースとした世界で物語が進んでいきます。主人公はいい子だしキャラたちは魅力的すぎるし声優さんの演技は秀逸だし、何より物語の鍵を握る「本」の存在がすごい。つまりストーリー自体がおもしろい。めちゃめちゃおすすめ。

三国恋戦記〜オトメの兵法!〜 公式サイト

AMNESIA(アムネシア)

数多くの乙女ゲームを開発・販売しているブランド「オトメイト」によるタイトル。オトメイトは絵の綺麗さに定評のあるブランドで、アムネシアも例外でなく美しいです。

主人公は記憶と人格をなくしてしまった女の子。……と、これだけ聞くとものすごくヘビーな感じしますよね?そう、これは非常にヘビーなお話です。

個人的には、乙女ゲームとしてどうこうというより、ただひたすらに「先が気になる!」だけで寝る間も惜しんでプレイしました。ちょっとピリッとスパイスの効いたタイトルをお探しなら、こちらをどうぞ。

AMNESIA(アムネシア) 公式サイト

イケメン戦国◆時をかける恋

今回、唯一のスマートフォンアプリ版のご紹介。基本的に、乙女ゲームはコンシューマー(家庭用ゲーム機)派でアプリはやらないんですが、イケメン戦国はめっちゃハマりました。今もやってるし。

サイバード作品はシナリオが丁寧なので、ストーリー重視派の乙女にもおすすめです。無課金でもちゃんとクリアできる点もポイント高し。

イケメン戦国◆時をかける恋 公式サイト

 

執筆・写真:七尾なお(@nao_2205
編集:卯岡若菜(@yotsubakuma

▼七尾なおさんのミチイロインタビュー記事はこちら

“ふつうの家族”に憧れていた。親の離婚・再婚・傷ついた恋愛の果てに辿り着いた、七尾なおさんの“今”

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